
画期的な顕微授精法(ICSI)ベルギーのグループが、新しい顕微授精の方法を発表しました。それまで顕微授精 といえば、卵子の透明帯に穴を開けて精子がはいりやすくしたり(透明帯開存法 PZD )、精子を透明帯と卵子の実質に数匹入れたりする方法(囲卵腔内精子法 SUZI)で した。誰もが、卵子の中へ精子を注入することは、卵に障害をもたらすものと考えていたのです。それをあえて実行して成功を収めたのがベルギーの医師たちでした。これが卵実質内精子注入法(ICSI)です。ICSIでは、わずか直径7μmのガラス製の針を用いて精子を吸い込みます。まず、 精子の尻尾から吸うのですが、これがなかなか大変な作業です。というのも、精子は 頭が大きくて尻尾がすこし曲がっているので、吸いはじめると頭のほうが近寄ってきてし まい、尻尾の先に針の先にもってくるのは至難の技なのです。 そこで、精子におとなしくしていてもらう方法が考案されました。それは、精子の尻尾 の首に近い部分を、針の先ですこし「こする」という簡単な方法です。つまり「精子の肩たたき」をするのです。さらに、こうすると精子は受精に必要なカルシウムの放出をするので 、卵子の感受性を高めることにもなるのです。 こうして、私たちのIVFJAPANでもICSIが主流となり、受精率・妊娠率ともに急激に 上昇したのです。 運動性ゼロの精子でも妊娠Tさんは、この治療法の恩恵を受けた最初の方です。Tさんは三十歳をすぎていらっし ゃいましたが、ほかの大学病院で、運動精子が全くいない“精子死滅症”という診断を受 けてこられました。ご本人も半ばあきらめ気味でしたが、わらをもすがる思いでIVFJAPANの門をくぐられたのでしょう。私たちは精子の機能をよく調べてみました。そしてまず、超生体染色法という方法を用 いました。これは生きたまま細胞を染色できる方法です。この結果、Tさんは動かないけれど生きている精子を三十パーセント持っていらっしゃることがわかりました。 しかし、生きているだけでは受精できるかどうかわかりません。したがって、精子受精 能力を調べるために、超生体染色を用いた精子尾部膨化試験(VHOS)を行なうことに しました。VHOSは、私たちのIVFJAPANがわが国ではじめて応用した、画期的な検査法 です。生きたまま染色した精子を浸透圧の低い液に浸すと、精子の尻尾の膜が膨れます。 この膨れ具合で、精子をおおっている膜の正常性を検査するのです。 この結果、Tさんの精子には少しながら受精能が存在するという結論を得ました。そ こで相談のうえで、“精子死滅症”に新しいICSI法を応用することになったのです。 その結果、みごとに受精に成功し、TMET法で胚移植して妊娠に成功しました。 ひと昔前なら、「あきらめて養子を迎えるか、お子さんのいない生活をお考えに なってください」といわざるを得ないところでした。しかし、医学の進歩によって以前で は考えられないようなことが可能になったのです。現代に生まれたことを感謝するケース でした。 |
![]()
|
|
|
精子の尻尾をしごくことによって受精しやすくなる。 |
||